Interview作家インタビュー

水彩画
人鳥華 Jinchouge
華やかなドレスをまとった女性、豊かな自然、静かに流れる物語。人鳥華氏の作品には、幻想的でありながら、どこか懐かしい美しさが漂う。 自身の作品を一言で表すなら、滅びぬ美。生きている間だけでなく、100年、150年、200年先にも残っていくような美しい絵を描きたいという。その創作の原点と、作品に込める思いを伺った。
ご自身の作品を一言で表すなら何でしょうか。

「滅びぬ美」です。自分が生きてる間も、死んだ後も、世の中に残っていくような絵を描きたい。そう思っています。

自分にとって美とは、魂の輝きのようなものです。人間は死んでも、魂は死なない。絵の中にも、その魂の欠片のようなものが宿るのではないかと感じています。

そうした感覚は、幼い頃から自然にありました。それはきっと、宮崎県で育ったことも大きいと思います。宮崎は神話の土地であり子供の時から田畑や自然が身近なものでした。なので子どもの頃は木に登ったり、田んぼの中を走ったりして遊んでいました。絵の中でも描かれる自然や目に見えないものへの感覚は、そうした環境の中で育まれたのかもしれません。

ドレスをまとった女性を描く理由を教えてください。

高校生の時に出会い、イラストを始めるきっかけにもなった『ローゼンメイデン』という漫画の影響は大きいです。この漫画はアンティークドールの物語なのですが、ドールがまとうゴシックなドレスの美しさに魅了され、自然と自分もこんな絵を描きたいと思いました。

また、20代で大学に入った時期に、ファッションデザインの先生と出会ったことも大きな経験でした。ある日の授業後にスケッチブックを見せたところ、絵を褒めていただき、そこからファッションの見方や美の世界について学びました。現在のドレス表現にも、その経験が生きています。

また、描く時には、ドレスの資料アプリを見たり、雑誌を買ったりしています。それから女性向けのファッション誌や化粧雑誌を参考に、アイメイクに使うラメなどを絵に取り入れることもあります。

ただ、資料で見た衣装をそのまま描くのではなく、自分で考えながら描くことを大切にしています。そうでないと楽しくないからです。

絵を描くのは楽しくないといけませんから。

「妖精の園」 作:人鳥華 Jinchouge
代表作について教えてください。

代表作として一つ挙げるなら、『妖精の園』でしょうか。堀辰雄(1904年~1953年 代表作は『風立ちぬ』など)の短編小説『美しい村』から着想を受けた作品で、自然と人との調和をテーマにしました。

私は毎年、初夏になると初夏をテーマにした作品を描いているのですが、この作品もその一つでして。は、描く際には清流と森を描くために貴船神社へ足を運びました。貴船は古くから清流で知られる場所でもあり、特有の空気感も作品に反映されています。

盛夏と異なり初夏は、暑さが少なく涼しさが残っているところが好きです。加えて、緑や花が美しく、自然の力も感じられる季節です。

また、背景の自然を描く時はなるべく自分で外へ足を運び、スケッチしたものを作品に取り入れるように心がけています。

それから、絵の話にはなりますが、自分の表現したい空気感を出すために、画材を使い分けるようにしています。。どの作品でも、描くときは水彩色鉛筆がメインにしていますが、例えば、『妖精の園』だと岩の苔の部分にはパステル、ひまわりの部分などにアクリル絵具を用いています。

「晴風」 作:人鳥華 Jinchouge
作品のアイデアはどのように生まれるのでしょうか。

文学、音楽、美術など、さまざまなものから影響を受けながら、一つの絵に結びつけていますね。

文学で特に影響を受けている作家は川端康成(1899年~1972年 代表作は『雪国』など))でしょうか。小説も随筆も、どの作品も、彼の作品には特有の清々しい読後感があり、私が作品づくりで大切にしたい「美」が感じられます。特に『花は眠らない』などの随筆に書かれた彼の美学は私の作品に強い影響を与えています。

音楽だと、クラシックからボカロ、ロック音楽と幅広く聴きますね。特に好きなアーティストはヨルシカ(2017年に結成された日本の男女2人組ロックバンド。コンポーザーの n-buna(ナブナ) と、ボーカルの suis(スイ) で構成され文学的な歌詞、ギターを主軸とした洗練されたサウンド、suisの透明感あふれる歌声が、若い世代を中心に絶大な支持を集めている)。私が描いた絵に『晴風』という作品があるのですが、これはヨルシカの『晴る』という楽曲を2024年のライブ「前世 再演」で聴いた時にとても感動した記憶をもとに描きました。

それから画家でいえば、印象派、特にルノワールが好きです。他にもルドンやモローのような象徴主義の画家の作品も好きです。イラストレーターだと先に述べたローゼンメイデンを描いたPEACH-PITさんとか。それこそ、時間があれば美術館に足を運び、実物を見たり、漫画を読んだりしてインプットをしています。

「死と乙女」 作:人鳥華 Jinchouge
ご自身の作品を通じて、見る人にどのような体験や感情を届けたいですか?

見た瞬間に、思わず立ち止まってしまうような作品を生み出したいと思っています。

先ほど紹介した『妖精の園』や『晴風』のような明るく幸福感に満ちた作品であれば、辛いことを忘れてうっとりしてもらいたいです。一方で『死と乙女』のように退廃的で死を彷彿とさせるような作品では、絵で人を殺せるくらいに釘付けになってもらいたい。いずれにしても、その人の心に残り続ける何かを届けたいとは思っていますね。

私にとって絵は、自己表現の手段です。言葉で伝えることがあまり得意ではないので、だからこそ、絵に思いを込めるようにしています。絵を通じて誰かの心に影響を与え、共鳴できる何かを与えることが出来たらそれが、私にとっての喜びです。

今後の目標や展望について教えてください。

年明けにWeb個展は行いましたが、今後はリアルの個展を開きたいです。それも、一度きりではなく、毎年続けていけるような形に。

また、依頼の仕事にも挑戦していきたいですね。たとえば音楽ジャケットや、楽曲に使う動画のための絵など、音楽に関わる表現にも関心があります。そのために、最近はデジタルで描く練習もしています。アナログとは異なるところが多いからか、難しさはありますが、新しい技術を学べる面白さも感じています。

後は、自分のWebページも作り、もっと多くの人に作品を見てもらうための準備を進めています。まだ足りない、もっとたくさんの人に作品を見てもらいたいという思いはありますね。

滅びぬ美を描くという言葉の通り、人鳥華氏の作品には、時間を超えて残したいという願いが込められている。自然、文学、音楽、ファッション。多様な美の記憶をまといながら、その絵は静かに、そして力強く輝いている。

インタビュー: 2026/08/17